FINE LYRIC

「おねえちゃん、おなかすいた」
冬の風が容赦ない。繋いだ手に温もりのなくなった妹が、遠慮がちにつぶやく。
「ん」
千恵は、口を開かずに返事する。
コンビニの前を通りかかった。暖かそうなコートに身を包んだ女の子が、手袋をした両手で肉まんをほおばっている。傍らには、優しそうなお母さん。
「肉まん、買ってあげようか?」
「え?いいよ。がまんできるよ」
そう答える妹の手を引いて、千恵は店の中へ入る。
「すみません、肉まんひとつください」
「115円です」
千恵は財布を逆さにして、手のひらで受けた。50円玉1つと、10円玉が6つ。
「すみません。やっぱりいいです」
千恵は妹の手を強く引くと、逃げるように店の外へ出た。
「おねえちゃんどうしたの?お金たりないの?」
千恵は何も答えない。なんだか怒ったような顔をして、鼻水をすすっている。妹はそれ以上なにも聞けなかった。
風は向かい風になり、空は藍色に染まってきた。
「お嬢ちゃんたち!」
呼び止められて、二人は振り返る。
「よかったら、これ食べてくれない?おねえさんたくさん買い過ぎちゃって、食べきれないのよ」
声の主は、さっきレジにいたおねえさんだった。渡された袋には、肉まんが2つ入っている。
「あの、でも」
千恵が何か言いかけた。
「じゃ、お願いね」
おねえさんはそう言うと、店の中へ戻っていった。
「おねえちゃん、肉まんもらったの?食べていいの?」
妹の声ははずんでいた。千恵は、妹の顔を見たら涙が溢れてしまいそうだったから、目を逸らして言った。
「おうちに、帰ってからね」
「うん!」
妹はスキップする。千恵は、妹のポニーテールが嬉しそうに弾んでいるのを見ながら、
「おかあさん」
と、空に向かって囁(ささや)いた。
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